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大阪地方裁判所 平成7年(ワ)3920号 判決 1997年1月30日

原告 日本ヒルスコーヒー株式会社

被告 名糖産業株式会社

主文

一  被告は、別紙第二目録記載の缶容器を使用した「ROYAL MILK TEA ロイヤルミルクティー四二〇g缶」を販売してはならない。

二  被告は原告に対し、金一一八万六七七〇円及びこれに対する平成八年六月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。

五1  この判決の第一項は、原告において金二五〇万円の担保を供したときは、仮に執行することができる。

2  この判決の第二項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求の趣旨

一  主文第一項と同旨

二  被告は原告に対し、金九八八万九七五〇円及びこれに対する平成八年六月五日(平成八年五月一〇日付「訴え変更の申立書」陳述の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  仮執行の宣言

第二事案の概要

本件は、コーヒー、紅茶類の商品開発、製造及び販売を業とする株式会社である原告が、原告が平成四年九月二一日から販売している別紙第一目録記載の「ミルク紅茶 MILK TEA 四二〇g缶」(以下「原告商品」という)の商品表示たる缶容器(以下「原告容器」という)は、遅くとも平成五年末には原告の商品表示として一般消費者の間に広く認識されるに至っていたところ、被告が平成六年一一月に販売を開始した別紙第二目録記載の「ROYAL MILK TEA ロイヤルミルクティー四二〇g缶」(以下「被告商品」という)の商品表示たる缶容器(以下「被告容器」という)は原告容器と類似し、原告商品との混同を生じさせているから、不正競争防止法二条一項一号の不正競争行為に該当すると主張して、同法三条一項に基づき被告容器を使用した被告商品の販売の差止めを求め、同法四条、五条に基づき被告が平成六年一一月から平成七年八月三一日までの間に被告商品を販売したことによって原告の被った損害の賠償を求めるとともに、

損害賠償請求については、更に、被告容器は、原告容器を模倣したものであり、原告商品の形態を模倣したものとして同法二条一項三号の不正競争行為にも該当すると選択的に主張するものである。

一  基礎となる事実

1  当事者

原告は、アメリカ合衆国に本店を置くHILLS BROS COFFEE INC.との提携により、ユーシーシー上島珈琲株式会社の関連会社として昭和五四年一一月に設立された会社であり、右ユーシーシー上島珈琲株式会社がその発行済株式の全てを保有している(甲一六、弁論の全趣旨)。

被告は、主として食品類の製造、販売等を業とする会社である(争いがない)。

2  原告商品の販売(甲一、二の1・2、一六)

原告は、平成四年九月二一日、インスタント粉末飲料である「モダンタイムスシリーズ」の一つとして、ミルク珈琲四二〇g缶及びミルクココア五二〇g缶とともに、原告容器を使用した原告商品(ミルク紅茶)の販売を開始した。

3  被告商品の販売(争いがない)

被告は、原告商品と同種のインスタント粉末ミルクティーとして、原告商品発売後の平成五年、「ミルクティー二七〇g缶」なる商品(以下「被告旧商品」という)の販売を開始し、平成六年一一月、被告容器を使用した被告商品の販売を開始し、現在に至っている。

被告商品の平成六年一一月から平成七年八月三一日(原告が原告商品の販売を開始した平成四年九月二一日から三年の期間が満了する以前の日)までの間の被告商品の総売上金額(返品額及び値引額を差し引いた正味売上金額)は、三九五五万九〇〇〇円であり、右総売上金額に対する粗利益率は二五%を下らないから、被告が被告商品の販売により得た粗利益の額は、九八八万九七五〇円を下らない。

同じく純利益率は三%を下らないから、被告が被告商品の販売により得た純利益の額は、一一八万六七七〇円を下らない。

二  争点

1  原告容器は、原告の商品表示として周知性を取得しているか。

2  被告容器は、原告容器と類似し、原告商品との混同を生じさせているか。

3  被告容器は、原告容器を模倣したものであり、原告商品の形態を模倣したものといえるか。

4  被告が損害賠償義務を負う場合に、原告に対し賠償すべき損害の額。

第三争点に関する当事者の主張

一  争点1(原告容器は、原告の商品表示として周知性を取得しているか)について

【原告の主張】

原告容器は、以下のとおり、遅くとも平成五年末には原告の商品表示として一般消費者の間に広く認識されるに至ったものである。

1 インスタント粉末ミルクティー市場における原告商品の占有率等

(一) 紅茶商品には、リーフティー(紅茶の葉そのものを商品化したもの)、ティーバッグ(紅茶の葉を特殊な紙製の小袋に少量ずつ小分けしたもの)、リキッドティー(通常、缶やペットボトル入りの、紅茶を抽出した液体の状態で販売するもの)及びインスタント粉末ティー(砂糖のほか、ミルク、レモン、アップルなどのフレーバーエキスが予めミックスされた粉末状の紅茶商品で、お湯等を注ぐことにより直ちに飲むことができるもの)があり、一般的にいえば、リキッドティーと粉末ティーは主として便利さを、リーフティーは主として味などの品質をそれぞれ追求した商品であり、ティーバッグは品質と便利さをともに追求した中庸の商品であるということができる。

粉末ティーは、予めミックスされているフレーバー等が重要であり、そのフレーバー等の種類によりミルクティー、レモンティー、アップルティーの三種類が代表的なものであるが、その商品コンセプトが右のとおり主として便利さを追求した商品であるため、従来、味等の品質にはあまりこだわらない商品であり、その販売対象たる消費者を子供など味にこだわらない者に設定した、いわゆる安物のイメージが強いものであった。そして、特に、粉末ミルクティーは、平成四年九月に原告商品が販売される前は、ミルク成分と他の成分とを均一に混ぜることが技術上困難であったことや、ミルクがレモンやアップルと異なりそれ自体強いフレーバーを持たず、まろやかな味わいを付加する性質のものであるため、混入するミルクの質がそのまま味、香りの差となって顕れ、いわばごまかしのきかないものであったことなどから、実質的には殆ど存在しなかったのであり、粉末ティー市場は、実質上、粉末レモンティー市場と粉末アップルティー市場とで構成されていたといっても過言ではない。

(二) そこで、原告は、高品質で高級イメージを有する粉末ミルクティーを開発すれば十分に市場を開拓できると考え、従来のように植物性乳脂肪のみから成るものではなく、動物性乳脂肪をも含んだまま粉末化し、かつ、特殊な製法によってミルク成分と他の成分を分離させずに均一化させる技術を開発し、これによって、これまでの粉末ミルクティーの常識を破り、大人を含め紅茶を愛飲する者の嗜好にも十分に耐えうる高級感のある味わい高い粉末ミルクティーである原告商品を開発し、平成四年九月二一日にその販売を開始したのである。

幸い、右のような商品コンセプトは一般消費者に歓迎され、原告商品は、著しい反響を得てヒット商品となり、粉末ミルクティー市場(業務用である自動販売機用のもの〔流通経路を異にし、包装等も極めて簡素化されている〕を除く小売用の市場)における占有率は、販売開始から短期間であるにもかかわらず翌平成五年末には約四〇%に、更に、平成六年には約六〇%強にまで達し、年毎にその売上額を倍増させている。それとともに、粉末ミルクティー市場自体も、平成五年には総売上額で推定二億七〇〇〇万円であったのが、平成六年度には推定約三億六〇〇〇万円となり、この拡大傾向はその後も続いている。

(三) したがって、本件においては一般消費者向けの粉末ミルクティー市場に着目する必要があるのである。

被告は、粉末ミルクティーだけでなく、粉末レモンティー及び粉末アップルティーをも合わせた粉末ティー全体についての被告の販売高及び市場占有率を挙げて、他社の追随を許さないと主張するが、一般的に、粉末ミルクティーを購入しようとする者が、同じ粉末ティーであるからといって粉末レモンティーや粉末アップルティーを選択的に購入するということはなく、各商品間に一般的代替性はないから、粉末ティー市場全体を一つの市場とみるのは不合理であり、被告主張の販売高及び市場占有率は、本件において参考とはならない(なお、原告の粉末ティーの売上高は、平成六年で約三億円、平成七年で約四億円である)。

2 原告容器の特徴

原告容器は、原告商品の販売開始当初から現在に至るまで全く変わっておらず、その特徴は、「直径約一〇四mm、高さ約一二〇mmの円筒密封型の缶容器で、上端には乳白色の透明のポリキャップが嵌着され、全体として濃い茶系統の地色を有し、正面視下段には紅茶を満たしたカップが表示され、正面視上段には、やや横長の幅広金モールによる角形の飾り枠を設け、その飾り枠内の地色を周りの地色よりも淡い色にし、その枠内及び缶上面のポリキャップ内に配置されたラベルに『ミルク紅茶 MILK TEA』なる表示を付したミルク紅茶四二〇g缶」というものである。

(一) 容器のサイズとして食缶規格二号缶を採用したこと

原告商品発売当時、一般消費者向けの粉末ティー商品の容器は、食缶規格二号缶より小型又は大型のサイズの缶が一般的に用いられてきた。したがって、原告が粉末ティー商品には一般的に用いられていなかった食缶規格二号缶を原告商品の容器として採用したことは、その商品イメージを変えることに役立つとともに、粉末ティー市場においては比較的斬新であったということができる。

なお、被告は、被告商品については食缶規格二号缶を採用しているが、その主力商品である粉末レモンティー及び粉末アップルティーについては、現在においても従来の食缶規格三号缶及び食缶規格一号缶を用いている。

(二) 容器の基本色を濃い茶系統の色にしたこと

従来、粉末ティーは、お湯等を注ぐことにより直ちに飲むことができる便利さというコンセプトから、どのようなフレーバー等(ミルク、レモン、アップル等)が付加されているかを消費者に直接訴えるため、その容器等には、その付加されたフレーバー等を彷彿させるデザインが一般に用いられてきた。

例えば、粉末レモンティーであれば、その付加されたレモンのフレーバーを彷彿させるため、レモンを図案の中に入れ、かつ、レモン果汁の色である淡色系を用いるのが一般的であった(乙二)。現に被告の粉末レモンティー及び粉末アップルティーもこのような考え方に沿ってデザインされている(甲一〇)。そして、粉末ミルクティーであれば、その付加されたミルクのイメージを前面に出すため、ミルクを容器の図案の中に入れたり、ミルクの色に似せた淡色系を用いるのが一般的であった。被告も、被告旧商品については、まさしくこの考え方に基づいてその缶容器をデザインしている(甲九)。

これに対し、原告容器は、このような従来の考え方を採用せず、原告商品の属する「モダンタイムスシリーズ」の粉末コーヒーなど他の商品との統一を図るべく、粉末ティー商品としては異例の、ミルクのイメージとは全く異なる濃い茶系統の色を基本色として採用したものであり、そのことにより、粉末ティーにどうしてもつきまとっていたある種の安っぽさからの脱却をも図り、「モダンタイムスシリーズ」に共通する高級感を醸し出しているものである。

被告は、被告容器の地色である「モロッコレッド」は従来から紅茶の缶に用いている基本色の一つである旨主張するが、原告は、高級感のあるリーフティーやティーバッグについてそのような濃い色が用いられてきたことを否定するものではなく、粉末ティーについてこのような濃い地色を用いることが一般的でなかったと主張しているものである。

被告提出の乙第四号証に掲げられた各商品は、確かに容器の基本色に濃色系の色を採用しているが、原告容器と比べて全体的に野暮ったい上、日邦製菓の粉末レモンティー(現在、市場に僅かに出回っている)を除き、原告商品の発売より六年ないし八年前に販売された極めて古い商品であり、しかも、おおよそ二、三年の間に消滅した商品である。

(三) 幅広金モール角形飾り枠及び乳白色の透明ポリキャップ

原告は、原告商品について、安物のイメージが定着していた従来の粉末ミルクティーと同様のイメージを持たれることを避けるため、金色の幅広モールパターンで原告商品名の角形飾り枠を作り、更に乳白色のポリキャップを用いて高級感を演出した。

なお、被告旧商品のポリキャップは、黄色であった。

(四) ティーカップの表示

前記幅広金モール角形飾り枠の真下に、紅茶を満たしたティーカップと受皿を、下一部が切れ、上一部が幅広金モール角形飾り枠に重なる形で配置した。従来容器にティーカップの図柄が使用されてきたことは、原告も否定しないが、原告容器においては、ティーカップの撮影角度、缶容器の全体に対して占める割合、その配置位置、上部にある角形飾り枠との重なり具合、下部の切れ具合に特徴があるのである。

なお、被告旧商品においても缶容器にティーカップが表示されていたが、上部は飾り枠と殆ど重なっておらず、下部は殆ど切れていない図柄であった。

被告提出の乙第二号証に掲げられた各商品は、雪印食品のミルクティーを除き、粉末レモンティー又は粉末アップルティーであるから、本件の参考にならない。右雪印食品のミルクティーの容器は原告容器と全く異なるものである。また、乙第五号証に掲げられた各商品におけるティーカップの表示は、それぞれ、全体のデザインに占める割合、位置関係、撮影角度、下部の切れ具合、上部の飾り枠との重なり具合、カップ自体のデザインや色調、模様が異なっている。

被告は、右(一)ないし(四)の点をそれぞれ単独で取り上げ、あたかも原告容器の外観が粉末ティーの容器として特徴がないかのように主張するが、原告は、原告容器の外観、形状の全体を通じて、従来の粉末ティーにない高級感を求め、全体をデザインしたものであり、右の個々の特徴はそれぞれ単独で原告の商品表示として機能するのではなく、全体的に有機的に一体となって原告商品のコンセプトを実現したものである。

3 原告容器の商品表示としての周知性の取得

原告商品は、前記1のとおり、平成四年九月二一日の販売開始以来、大人を含め紅茶を愛飲する者の嗜好にも十分に耐えうる高級感のある味わいによりヒット商品となり、粉末ミルクティー市場を拡大させながら、一般消費者に着実に認識されてゆき、これと相まって、原告商品の高級感ある仕上がりと符合する前記2の特徴を有する外観、形状の原告容器は、遅くとも、粉末ミルクティー市場における原告商品の占有率が約四〇%になった平成五年末には、原告の商品表示として一般消費者の間に広く認識されるに至った。

【被告の主張】

以下のとおり、被告は粉末ティー市場において他社の追随を許さない市場占有率を誇っていること、原告容器は特徴のあるものではないことからして、原告容器が原告の商品表示として一般消費者の間に広く認識されるに至っているとはいえない。

1 粉末ティー市場における被告の占有率等

(一) 被告は、昭和二〇年に設立され(昭和三四年に株式上場)、昭和二九年から粉末飲料の販売を開始し、昭和四〇年からは粉末ティーの販売を開始したものであって、粉末ティーの販売高及び市場占有率は、平成五年において三〇億三〇〇〇万円、五〇・六%であり、平成六年において三〇億九〇〇〇万円、四七・六%であって、他社の追随を許さない。

一方、原告は、昭和五四年に設立された後発企業であって、しかも、ティー関連の売上高は二億円弱にすぎない。

(二) 粉末ミルクティーはフレーバーバリエーションの一つにすぎないにもかかわらず、原告は、粉末ミルクティーのみを取り上げ、それ以外の粉末ティーとは別の市場を形成しているかのように主張するが、粉末ティーは、粉末ミルクティー、粉末レモンティー及び粉末アップルティーを含めた全体で一つの市場を形成しているから、その全体での市場占有率を捉えるべきものである。

2 原告が原告容器の特徴と主張する点について

(一) 容器のサイズとして食缶規格二号缶を採用したこと

被告は、従前から他の商品にも食缶規格二号缶を使用してきている。

(二) 容器の基本色を濃い茶系統の色としたこと

粉末ティーの容器には紅茶をイメージする紅系又は茶系の色が従来から使用されており(乙四)、原告容器は後発的にこれを採用したものである。原告だけが紅茶の持つ色及びそれに類似する色を独占的に使用できる根拠はない。

なお、被告容器の地色は、原告容器のような濃い茶色ではなく、従来から紅茶の缶に用いている基本色の一つである赤系の「モロッコレッド」であって、紅茶の持つ雰囲気を表現したものである。

(三) 幅広金モール角形飾り枠及び乳白色の透明ポリキャップ

ポリキャップを缶に付する方法は、被告は約二〇年の長きにわたり行っていることである。

(四) ティーカップの表示

缶正面の下部にミルクティーを満たしたティーカップを配置した図柄は、被告も約二〇年の長きにわたり使用してきたものである。他社の粉末ティーの缶容器にも同様の図柄が描かれており、ティーカップの撮影角度及びカップ下部の切れ具合もほぼ同一である(乙二、五)。

二  争点2(被告容器は原告容器と類似し、原告商品との混同を生じさせているか)について

【原告の主張】

被告容器は、以下のとおり、容器のサイズ、容器の基本色などの点で原告容器と類似し、原告商品との混同を生じさせていることは明らかである。

1 被告容器の特徴

被告容器の特徴は、「直径約一〇四mm、高さ約一二〇mmの円筒密封型の缶容器で、上端には乳白色の透明のポリキャップが嵌着され、全体として濃い茶系統の地色を有し、正面視下段には紅茶を満たしたカップが表示され、正面視上段には、やや横長の幅広金モールによる角形の飾り枠を設け、その飾り枠内の地色を周りの地色よりも淡い色にし、その枠内及び缶上面のポリキャップ内に配置されたラベルに『ROYAL MILK TEA ロイヤル ミルクティー』なる表示を付したミルクティー四二〇g缶」というものである。

2 被告容器と原告容器との客観的類似性

被告容器は、前記一の2記載の原告容器の特徴をすべて備えており、一般消費者が誤認混同するほどに類似していることは明らかである。すなわち、容器のサイズ、ポリキャップの色が同一であること、容器の基本色が濃い茶系統の色であること、カップ表示と幅広金モール角形飾り枠を採用していることのほか、カップ表示と飾り枠の配色、大きさとその位置関係、カップ表示の撮影角度、カップ表示の下方部分の切れ具合と上方部分の飾り枠との重なり具合というように、被告容器と原告容器との同一性、類似性を示す点は枚挙にいとまがない。

更に、原告商品及び被告商品は小売店、量販店等において同一陳列棚の同一場所に配置されうるものであり、このような状況下においては、原告容器と被告容器とは外観上区別し難いほどに類似しているといわざるをえない。

被告は、原告容器と被告容器には異なる商品名が明示されているから、被告商品と原告商品との混同は生じない旨主張するが、右に述べた両容器の全体的な類似性及び両商品の陳列状況を勘案すれば、右商品名の表示が看者に与える印象は大きくなく、両容器が誤認混同を生じるほどに類似していることを否定することにはならない。

【被告の主張】

1 被告容器の特徴について

被告容器の特徴として原告の主張するところは、「濃い茶系統の地色」とある点を否認し、その余は概ね認める。被告容器の地色は前記のとおり「モロッコレッド」である。

2 被告容器と原告容器との客観的類似性について

粉末ティーの容器に紅茶をイメージする紅系又は茶系の色を使用すること、紅茶を満たしたティーカップを表示することなどは、従前から行われていたことであって、各社の粉末ティーの容器には多くの類似点がある(乙二、四、五)が、文盲率が低く商品知識の高い日本の一般消費者はこれらを混同することなく購入してきているのである。

原告容器には「ミルク紅茶」と日本字で表示され、被告容器には「meito ROYAL MILK TEA」と英字で表示されており、その他種々の違いがあるから、文盲率が高く商品知識の至って低い市場においてはいざ知らず、日本の市場においては被告商品と原告商品との混同は生じない。

三  争点3(被告容器は、原告容器を模倣したものであり、原告商品の形態を模倣したものといえるか)について

【原告の主張】

被告容器は、以下のとおり、被告が原告商品との販売競争において被告旧商品の競争力の劣勢を感じたため、原告商品の売上げ増に便乗して劣勢を挽回すべく、原告容器を模倣したものであり、原告商品の形態を模倣したものである。

1 被告旧商品

被告は、平成五年頃から粉末ティーとして、レモンティー二七〇g缶・八〇〇g缶、アップルティー二七〇g缶・八〇〇g缶とともに被告旧商品(ミルクティー二七〇g缶)を販売していたが、その缶容器は、次の各点で原告容器と相違していたものであり、原告容器とは似ても似つかぬものであった。

(一) サイズが直径約八五mm、高さ約一一五mmであって、原告容器よりも一回り小さいサイズである。

(二) 地色は、インスタント粉末ティーに一般的かつ支配的に用いられてきた淡色系の淡い黄色である。

(三) 飾り枠は、草花飾り模様の楕円枠である。

(四) ポリキャップは、不透明の濃い黄色のものである。

2 原告容器の模倣

しかるに、被告は、粉末ティー市場において売上高、市場占有率とも伸び悩んでいたところ、急速に伸びつつあった粉末ミルクティー市場における原告商品との販売競争において原告商品の急激な市場占有率の拡大に被告旧商品の競争力の劣勢を感じたため、原告商品の売上げ増に便乗して劣勢を挽回すべく、急遽、平成六年一一月に被告旧商品の販売を中止し、原告容器を模倣した被告容器を使用した被告商品の販売を開始したものである。

被告が原告容器を模倣する主観的意図があったことは、前記1のとおり被告旧商品の缶容器は原告容器と似ても似つかぬものであったところ、粉末ミルクティーである被告旧商品のみの販売を理由なく中止して原告容器に酷似した被告容器を使用した被告商品の販売を開始している上(被告の販売する粉末ティーのうちレモンティー及びアップルティーは被告商品の販売開始後も従来の商品形態を維持している)、被告は被告容器の決定に際しいくらでも原告容器と異なるデザイン、形状のもの(たとえ部分的には類似したところがあっても、全体の組合せにおいて原告容器と類似しないもの)を選択しえたにもかかわらず、前記のように異常ともいえるほど原告容器に類似した被告容器を選択したことから、明らかである。

【被告の主張】

原告の主張事実は否認する。前記のとおり粉末ティー市場において他社の追随を許さない市場占有率を誇る被告が、後発企業でありティー関連の売上高も低い原告の商品形態を模倣する理由は全くない。

被告の販売する粉末ミルクティーには、セイロン紅茶を主原料とする平成五年九月発売の「meito MILK TEA」(被告旧商品)と、アッサム種紅茶を主原料とする平成六年一一月発売の「meito ROYAL MILK TEA」(被告商品)との二種類あり、両商品は、商品名も紅茶の種類も異なる別個の商品である。

四  争点4(被告が損害賠償義務を負う場合に、原告に対し賠償すべき損害の額)について

【原告の主張】

1 前記第二の一3のとおり被告が被告商品の販売により得た粗利益の額は九八八万九七五〇円を下らないから、不正競争防止法五条一項により、原告は、右粗利益の額と同額の損害を被ったものと推定される。

不正競争防止法五条一項により侵害者の受けた「利益」の額をもって権利者(被侵害者)の被った損害の額と推定しうる根拠は、侵害行為がなければ侵害者が販売した競合商品とほぼ同数だけ権利者が売上げを伸ばすことができたとの経験則に基づくものであるが、このような同条項による推定の根拠を考えれば、少なくとも同法二条一項一号の不正競争行為に関しては、侵害者の受けた「利益」とは粗利益を指すと解すべきである。

すなわち、通常、権利者がある商品表示について周知性を取得した段階では、既に商品の開発、普及のための初期投資は終了しているから、一般的に、侵害行為以降、例えば販売費に分類される販売員の給料や広告宣伝費、一般管理費に分類される賃料等の固定費等の費用は、侵害行為がなかったと仮定した場合の権利者の商品の製造、販売の増加分について、その分だけ実際に権利者が支出した費用よりも支出が増えるとは考えられない。したがって、侵害行為がなければ権利者が得られたであろう逸失利益の額を算定するためには、侵害行為がなければ増えたであろう売上分について、侵害者側で支出した商品開発のための初期投資や販売費、一般管理費といった費用は除外する必要があり、結局、権利者の逸失利益は、侵害行為がなければ増えたであろう売上高からその商品を製造するため必要な製造原価を差し引いた粗利益の額に等しいものというべきである。

本件においても、原告商品が粉末ミルクティー市場において圧倒的に高い認知度と売上げを確立した後に被告商品が販売されたのであるから、侵害行為がなければ増えたであろう売上分について、製造原価以外に原告が特別な出費を必要としたとは考えられず、当該売上分について被告が出費した初期投資等の特別の費用を原告の負担に転嫁するような結論は妥当でない。

2 仮に、右粗利益の額をもって原告の被った損害の額と推定されないとしても、前記第二の一3のとおり被告が被告商品の販売により得た純利益の額は一一八万六七七〇円を下らないから、原告は、右純利益の額と同額の損害を被ったものと推定される。

また、周知商品表示たる原告容器又は商品形態としての原告容器の通常使用料は売上高の三%と考えられるから、被告容器を使用した被告商品の販売による通常使用料相当の損害金の額も、前記総売上金額の三%である一一八万六七七〇円ということになる。

第四争点に対する判断

一  争点1(原告容器は、原告の商品表示として周知性を取得しているか)について

1  原告商品の開発経緯及び販売状況、市場占有率

証拠(甲一、二の1・2、三の1~19、四ないし八、一四、一六、検甲一)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告は、その親会社であるユーシーシー上島珈琲株式会社及びその提携先であるHILLS BROS COFFEE INC.がいずれもコーヒー製品の製造、販売で知られた会社であったため、昭和五四年一一月の設立当初は品質に重点を置いたレギュラーコーヒー(コーヒー豆そのもの又はそれを細かく砕いて粉にした商品)を中心に製造、販売を行ってきたが、その後、取扱商品の種類の拡充を図るため紅茶製品への進出を試み、平成三年にはテトラバッグ商品(ティーバッグとリーフティーの中間形態のような商品で、三角錐状の紙製の小袋にリーフティーと同等の紅茶の葉を小分けして入れたもの)を開発し、次いで、平成四年三月頃から粉末ティー商品、特に粉末ティーの簡便さを活かしながら本格的な味わいのミルクティーの実現を目指して粉末ミルクティーの開発に取り組み、粉末ミルクコーヒー(ミルク珈琲四二〇g缶)及び粉末ミルクココア(ミルクココア五二〇g缶)とともに、「モダンタイムスシリーズ」の一環として粉末ミルクティーを製造、販売することとした(その後、粉末アップルティーの個包装タイプのもの、カプチーノ二三〇g缶、粉末ミルクティーの個包装タイプのもの、カフェ・オ・レ四二〇g缶が「モダンタイムスシリーズ」に追加された)。

その容器についても、原告は、「モダンタイムスシリーズ」に共通するコンセプトのもとに、高級なイメージを表現するようなデザインを独自に創作し採用した(その詳細は後記のとおり)。

(二) こうして、原告は、平成四年九月二一日、粉末ミルクティーである原告商品の販売を開始したが、その売上額(小売価格)は、平成四年(九月二一日~一二月)で二〇一二万一三六〇円、平成五年で一億五一〇五万七二〇〇円、平成六年で二億九一七〇万六八〇〇円、平成七年(一月~三月)で一億六一五二万三六〇〇円というように順調に売上げを伸ばした(甲五)。そして、その卸売価格は、小売価格の約七割であるので、平成四年(九月二一日~一二月)で約一四〇八万円、平成五年で約一億〇五七四万円、平成六年で約二億〇四一九万円、平成七年(一月~三月)で約一億一三〇七万円である。

一方、日刊経済通信社発行の「酒類食品統計月報一九九五(平成七)年一月号」(甲六)によれば、わが国における粉末ティー(インスタントティー)全体の生産額(卸値)は、平成五年で約六〇億円(実績)、平成六年で約六五億円(実績見込み)であるところ、原告の推測によれば、そのうち原告商品を含む一般消費者向け商品(自動販売機用等の業務用商品を除いたもの)はその約六五%(平成五年で約三九億円、平成六年で約四二億二五〇〇万円と考えられ、更にそのうち粉末ミルクティーの占める割合は、平成五年で約七%、平成六年で約八・五%と考えられるので、一般消費者向けの粉末ミルクティーの生産額(卸値)は、平成五年で約二億七三〇〇万円、平成六年で約三億五九一三万円となる。

したがって、一般消費者向け粉末ミルクティー全体の生産額(卸値)に占める原告商品の割合(市場占有率)は、平成五年で約三九%(一億〇五七四万円を二億七三〇〇万円で除したもの)、平成六年で約五七%(二億〇四一九万円を三億五九一三万円で除したもの)ということになる。

(三) 平成七年八月七日発行の「フードウイークリー(週刊食品)」(甲一七)には、「ティーミックス市場活気づく」との見出しの下に、「日本ヒルスコーヒーは一九九二年九月から「モダンタイムス」のブランドでミルク紅茶四二〇g缶を発売しているが、併売のミルク珈琲、ミルクココアを含めたプレミックスタイプは前年同期比二〇〇%を上回る出荷ペースが続いており、中でもミルク紅茶のウエートが一番高い。同社ではミルクティー市場では、発売二年後の九四年には全体の六〇%強(自動販売機用は除く)のシェアを占めるヒット商品となっており、当然ながらミルクティー市場ではトップブランド。」との記事が掲載されている。

また、平成八年一月二九日発行の同紙(甲一八)には、「一〇〇億円達成は間近 ティーミックス ミルクティー人気が支え」との見出しの下に、「ティーミックス市場は、これまで子供を対象にした製品開発であったが、品質の向上から大人を対象にしたティーミックス製品が登場して市場規模を一気に拡大しつつある。ティーミックスと言えば従来はレモンティーが中心的な製品であったが、このところミルクティーの需要が市場規模拡大に拍車をかけており、末端市場規模百億円超えは意外に早い、とも言われている。ミルクティーの登場で消費層が飛躍的に広がったことが急成長の要因でもある…。」「レモンティー市場では人気の高い名糖産業が94年十一月からロイヤルミルクティー四二〇g缶で市場に参入したほか、…。一方、ミルクティー市場ではトップブランドとなっている日本ヒルスコーヒー…」との記事が掲載されている。

また、平成八年二月二九日発行の「食料醸界新聞」(甲二〇)には、「ミルク系パウダードリンク好調!」との見出しの下に、「ミルクリッチのパウダードリンクが目立って増えてきたが、中でも伸び足を早めているのがミルクティーパウダーである。紅茶業界がTB、LTに次ぐ『第三の商材』としてティーパウダーの育成に急ピッチの展開であるが、伝統のレモンティーパウダーにオンする形になっているのがミルクティーパウダーである。ティーパウダーのけん引車として期待が高まっている。」「紅茶の場合、ミルクティーパウダーは代表メニューでのIT普及ということで過去に何度もチャレンジがみられたが、LT、TBで抽出したティーにミルクを入れた本格的味わいのものが技術的に仲々開発出来なかった。それが九二年にカプチーノが登場したのとほぼ同時期に、日本ヒルスコーヒー(モダンタイムス印)、和光堂といった企業からミルクリッチの嗜好品時代到来とみて本格品を開発、ミルクティーパウダーの歴史を画する製品でチャレンジしたのが契機で急増。」「九五年の家庭用市場の銘柄動向は、日本ヒルスコーヒーのモダンタイムス三品で小売ベース七億円強と見られ、シェアの五〇~六〇%を握っているもよう。あと日本リーバ・リプトン、AGF・ワールドカフェテリアなどが混戦とみられる。」との記事が掲載されている。

2  原告容器及び従来の粉末ミルクティーの容器の形態

証拠(甲九、一〇、乙二、四、七、一七、検甲一ないし三)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告容器(検甲一)の形態は、次のとおりである。

(1)  直径約一〇四mm、高さ約一二〇mmの円筒密封型の缶容器であり、これは、食缶二号缶という規格サイズである。

(2)  缶容器周面の地色は、全体として濃い目のこげ茶色であるが、上方ほどその濃さの度合いが強く、下方に行くに従って濃さの度合いが弱まり、最下方においてはやや明るい茶色を呈している。

(3)  容器上端には半透明の白色ポリキャップが嵌着されており、右ポリキャップ内側にポリキャップの内周とほぼ合致する大きさの丸い赤地の紙片が入れられていて、金文字で中央に大きく「ミルク紅茶」と表示され、その上側に小さく「Moderntimes」「モダンタイムス」、下側に小さく「MILK TEA」などと表示されており、ポリキャップを通して右紙片の地色及び金文字がうすく見える。

(4)  容器正面の上部には、やや横長で下側の長辺が容器正面の真ん中よりやや下方に位置する長方形の幅広金モールによる角形飾り枠(その下側の長辺中央部は、後記(5) のとおりティーカップの上方が重なっているため隠れている。また、その四角部分は、枠の幅が他の部分よりもやや広くなっている)が設けられ、右飾り枠の内側は、缶容器周面の地色よりもうすい、ミルクティーの色をイメージさせるようなうす茶色の地であって、中央に大きな黒い文字で「ミルク紅茶」と表示され、その上側に小さい茶色の文字で「Modern Times」「SWEET SCENTED & VERY TASTY」、下側に小さい黒い文字で「MILK TEA」、その下方に小さい茶色の文字で三行にわたり「香り高いスリランカとアッサムのブレンド紅茶に、」「良質なミルクをたっぷり入れ、豊かな味わいの」「ミルク紅茶です。」と表示されている。

(5)  容器正面の下部には、中央にミルクティーを満たし皿の上に載せたティーカップを斜め上方から見た図柄が描かれているが、右ティーカップの上方は前記(4) の角形飾り枠の下側の長辺中央部の上に重なって、これを隠しており、下方はティーカップの底部及び皿が一部切れている。

(二) 原告商品が発売された平成四年九月二一日より前に販売されていた粉末ティーは、レモンティーがその主流を占めており、ミルクティーについては、過去の一時期販売され現在は販売されていないものを含めてもその種類は豊富でない(乙第二号証〔各メーカーの製品写真のコピー〕に掲げられた八種類の粉末ティーのうち、レモンティーは六種類に及ぶのに対し、ミルクティー及びアップルティーは各一種類にすぎず、乙第四号証〔前同〕に掲げられた九種類の粉末ティーも、必ずしもその種類が明らかでないものもあるが、明確にミルクティーであると分かるのは後記明治製菓株式会社の「ミルク紅茶」一種類にすぎない。なお、乙第五号証〔前同〕に掲げられた粉末ティーの中にもミルクティーが含まれているが、同号証掲記の粉末ティーはすべて平成六年になってから発売されたものであり、しかも個包装タイプのものであり、したがって、包装箱に入れられていて、缶容器には入れられていない)。

そして、昭和六〇年頃に発売された雪印食品株式会社の「雪印ミルクティー」(乙二)、昭和六一年頃に発売された明治製菓株式会社の「ミルク紅茶」(乙四)、最近発売された和光堂株式会社の「ロイヤルミルクティー」(検甲三)の各容器の形態は、以下のとおりである。

(1)  雪印食品株式会社の「雪印ミルクティー」の容器は、円筒密封型の缶容器であって、缶容器周面の地色が白色であり、缶上端に半透明の白色ポリキャップが嵌着されている。正面の上部には、横長楕円形の黒枠が設けられ、右黒枠内はクリーム色の地であって、黒色太字で「MILK TEA」と表示され、これより小さい字で上側に「SNOW BRAND」、下側に「雪印ミルクティー」と表示されている。そして、正面の下部には、中央にミルクティーを満たし皿の上にスプーンとともに載せたティーカップを斜め上方から見た図柄が描かれているが、その傍らにミルクを入れたピッチャーも描かれている。

(2)  明治製菓株式会社の「ミルク紅茶」(乙四)の容器は、蓋付の細長い円筒形缶容器であって、缶周面は赤地のタータンチェックであり、正面のほぼ中央にやや縦長のほぼ長方形状の大きい白地部分があり、右白地部分には青い太文字で「ミルク紅茶」と表示され、その下側にこれより小さい赤い文字で「Milk Tea」と表示されている。その外、左下隅に黄色い花が描かれている。

(3)  和光堂株式会社の「ロイヤルミルクティー」(検甲三)の容器は、円筒密封型の四二〇g缶(食缶二号缶)であって、缶容器周面の地色がミルクティーの色を彷彿させるうす茶系統の色であり、缶上端に半透明の白色ポリキャップが嵌着されている。正面の上部には、横長で上辺中央及び下辺両端に滴様の飾りが施されている白色二重線による四角枠があり、その内部は、渋い金色の地であって、白色文字で大きく「Royal Milk Tea」、その下側に小さく「ロイヤル ミルクティー」と表示され、四角枠の外側上方に「WaKODO」と表示されている。そして、正面の下部にはアンティークな感じのテーブル及び椅子等の図柄が大きく描かれている。

(三) 原告商品の販売開始後の平成五年五月に被告が販売を開始した被告旧商品(ミルクティー二七〇g缶。甲九)の容器は、円筒密封型の二七〇g缶であって、缶周面の地色が淡い黄色であり、缶上端に不透明の濃い黄色のポリキャップが嵌着されている。正面の上部には、横長の外周が四角形で内周が楕円形の草花模様の飾り枠があり、その内側に「meito」「MILK TEA」「Rich Taste」と三段に表示されている。正面の下部には、中央にミルクティーを満たし皿の上に載せたティーカップを斜め上方から見た図柄が描かれている(ティーカップも皿も全体が描かれている)。

(四) なお、原告商品の販売開始前に販売されていた、粉末ミルクティー以外の粉末ティーのうち乙第二号証に掲げられたもの(昭和五二年七月販売の「名糖 レモンティー二七〇g」、昭和五九年頃販売の「明治 レモンティー」、昭和六〇年頃販売の「雪印食品 レモンティー」、昭和六一年頃販売の「ハマヤ レモンティー」、「フルタ レモンティー」、昭和六二年頃販売の「AGF レモンティー」、昭和六三年頃販売の「日東 アップルティー」)の容器は、いずれも、円筒密封型の缶容器であって、缶周面の地色が白色系の明るい色であり、缶上端に半透明の白色ポリキャップが嵌着され、正面の上部には、楕円形ないしはそれに近いもの又はやや横長の長方形様で金色等の帯状の枠の中に商品名が大きく表示されており(但し、「AGF レモンティー」については枠がない)、正面の下部には、レモンティー又はアップルティーを満たし皿の上に載せたティーカップを斜め上方から見た図柄が描かれているが(但し、その斜めの角度はまちまちであり、正面下部における左右の位置及び上部の商品名が表示されている枠との位置関係はそれぞれ異なる)、加えてレモンティーの缶にはレモンの図柄が、アップルティーの缶にはりんごの図柄が描かれている。

同じく乙第四号証に掲げられたもののうち、昭和五九年頃販売の「共同食品工業 hi-hi instant TEA」、昭和六一年頃販売の「POKKA Lemon Tea」(缶入り)の容器は、いずれも円筒形缶容器であって、缶周面の地色が濃い赤系統の色であり、前者は、蓋付のもので、缶正面の上部に商品名が大きく表示され、下部にやや横長の長方形状の大きい白地の部分が設けられていて、紅茶を満たし皿の上にスプーン、レモンとともに載せたティーカップを斜め上方から見た図柄が描かれており、後者は、密封型のものであって、缶上端に半透明の白色ポリキャップが嵌着されており、正面の全体に商品名等のみが大きく表示されており(図柄は描かれていない)、昭和五九年頃販売の「POKKA Lemon Tea」(瓶入り)の容器は、濃い赤系統の色の蓋が付いた透明な瓶であって、周面のほとんど全体に地が濃い赤系統の色のシールが巻かれていて、正面の全体に商品名等のみが大きく表示されており(図柄は描かれていない)、いずれも粉末ストレートティーと思われる昭和五九年頃販売の「サントリー TESS」、昭和六一年頃販売の「AGF 紅茶物語」(瓶入り)の容器は、いずれも蓋付の瓶であって、その周面は黒色であり、前者は、蓋の部分に金色の紙が被せられ、瓶正面に商品名等のみが大きく表示されており(図柄は描かれていない)、後者は、蓋の色は濃い赤系統の色であり、瓶正面の上部に商品名が表示され、正面の下部にティーを満たし皿の上に載せたティーカップを斜め上方から見た図柄が描かれている。その外、昭和五九年頃販売のコスモスの粉末ティーは、縦長の包装袋に入れた粉末ティーを複数透明な円筒形包装容器に収納したものであり、昭和六一年頃販売の「AGF 紅茶物語」は、スティックタイプの包装袋に入れた粉末ティーを複数透明な円筒形容器に収納したもので、周面に地がオレンジ色のシールが巻かれていて商品名とティーを満たし皿の上に載せたティーカップが表示されており、現在も販売されている日邦製菓の「レモンティー」は、地が黒色の大きい長方形の包装袋に入れられたもので、商品名と紅茶を満たし皿の上に載せたティーカップを斜め上方から見た図柄及び真上から見た図柄が表示されている。

また、被告が粉末ミルクティーを販売したのは被告旧商品が最初であり、その前に被告が販売していた粉末ティー(乙第七号証別紙二)は、いずれもレモンティー、アップルティー又はオレンジティーであって(前記「名糖 レモンティー二七〇g」の外、昭和四六年九月発売の「名糖 レモンティー」、昭和五四年一〇月発売の「レモンティーエクストラ36」、昭和五九年三月発売の「アップルティー」、同年六月発売の「レモンティースティック」、昭和六〇年四月発売の「名糖 アップルティー」、平成元年四月発売の「名糖 レモンティーゴールド」、平成元年八月発売の「レモンティーファインリー」、平成三年八月発売の「シャリマティー」、同年一二月発売の「オレンジティー」)、その容器は、包装箱入りの「レモンティースティック」を除き、いずれも蓋付の円筒形缶容器又は上端にポリキャップを嵌着した円筒密封型缶容器であるところ、その缶容器周面の地は白を基調とする明るい色であり、その正面は、横長長方形様の金色帯状枠の中に商品名等のみが表示されているもの(図柄は描かれていない。三種類)と、上部に商品名が表示され、下部にティーを満たし皿の上に載せたティーカップを斜め上方から見た図柄が描かれているもの(前記「名糖 レモンティー二七〇g」を含む六種類)とがあるが、後者のうち右図柄が正面下部の中央に配置されているのは「名糖 レモンティーゴールド」及び「シャリマティー」のみであり(その他のものは、右図柄が正面下部の右か左かに寄っている)、「名糖 レモンティーゴールド」においては、商品名が表示された部分は地が濃い赤系統の色の太い帯状であり、「シャリマティー」においては、商品名が表示された部分は前記缶容器周面の地色のままであり、図柄が表示された部分は地が濃い紫色で、右図柄の後にオレンジが二個描かれている。

3  原告容器の商品表示としての周知性

(一) 前記1(二)認定の事実によれば、原告商品は、平成四年九月二一日の販売開始以来、その売上額(小売価格)は、平成四年(九月二一日~一二月)で二〇一二万一三六〇円、平成五年で一億五一〇五万七二〇〇円、平成六年で二億九一七〇万六八〇〇円、平成七年(一月~三月)で一億六一五二万三六〇〇円(卸売価格では、それぞれ約一四〇八万円、約一億〇五七四万円、約二億〇四一九万円、約一億一三〇七万円)であるというように順調に売上げを伸ばし、一般消費者向け粉末ミルクティー市場における原告商品の市場占有率は、平成五年で約三九%、平成六年で約五七%であり(原告の推測によるものであるが、これに反する証拠はない)、原告は、粉末ミルクティー市場においていわゆるトップメーカーの地位を確立したばかりでなく、粉末ミルクティー市場全体の拡大にも貢献しているということができるのであって、このことは前記1(三)認定の各業界紙の記事からも窺うことができる。したがって、原告商品は、粉末ミルクティー愛好家等一般消費者に好評をもって受け容れられ、相当程度一般消費者に浸透したということができる。

なお、被告は、粉末ティーは、粉末ミルクティー、粉末レモンティー及び粉末アップルティーを含めた全体で一つの市場を形成しており、その全体での市場占有率を捉えるべきところ、被告の粉末ティーの市場占有率は、平成五年において五〇・六%、平成六年において四七・六%であって他社の追随を許さない旨主張するが、粉末ティー市場は、全体で一つの市場を形成すると同時に、粉末ミルクティー市場、粉末レモンティー市場、粉末アップルティー市場というように細分化され独立した市場からなっており、それぞれの市場における占有率が問題とされることも否定できない(前記業界紙の記事参照)。けだし、これらの各商品は、同じ粉末ティーという上位概念で一括できるとしても、ミルクティーはレモンティーあるいはアップルティーとは風味、味が異なるものであって、各人によってそれぞれの好みが比較的はっきり分かれることが容易に推察できるところであり、粉末ミルクティーと粉末レモンティー及び粉末アップルティーとではその購買層が異なるともいえるからである。したがって、粉末ミルクティーである原告商品の容器(原告容器)の周知性が問題になっている本件において、粉末ティー市場全体でのみ市場占有率を捉えることは相当でないから、被告の右主張は採用できない(しかも、被告の主張する粉末ティーの市場占有率の数値自体、これを認めるに足りる証拠はない。甲第一四号証〔株式会社富士経済発行の「FOOD & FOOD SERVICE」平成七年二月二〇日号〕によれば、インスタントティー全体における被告の市場占有率は、平成五年三四・五%、平成六年(見込)三〇・八%、平成七年(予測)二八・六%とされている)。

(二) そして、原告商品は、粉末ミルクコーヒー及び粉末ミルクココア等とともに「モダンタイムスシリーズ」の一商品であり、原告容器も「モダンタイムスシリーズ」の他の商品と共通するコンセプトのもとに統一されているところ、その形態は、前記2(一)認定のとおりであり、缶容器周面の地色を濃い目のこげ茶色とし、缶容器正面の上部にやや横長で下側の長辺が容器正面の真ん中よりやや下方に位置する長方形の幅広金モールによる角形飾り枠が設けられ、飾り枠の内側は缶容器周面の地色よりもうすい、ミルクティーの色をイメージさせるようなうす茶色の地であり、正面の下部中央にミルクティーを満たし皿の上に載せたティーカップを斜め上方から見た図柄が描かれ、容器上端には半透明の白色ポリキャップが嵌着されているなど、全体として落ち着いた中にも豪華な印象を与えるものとなっている。

(三) 一方、前記2(二)認定のとおり原告商品の発売前に発売された粉末ミルクティーである昭和六〇年頃発売の雪印食品株式会社の「雪印ミルクティー」(乙二)、昭和六一年頃発売の明治製菓株式会社の「ミルク紅茶」(乙四)、及び最近発売の和光堂株式会社の「ロイヤルミルクティー」(検甲三)の容器は、以下のとおり、原告容器とはその色彩等において全く異っており、異なる印象を与えるものといわなければならない。

すなわち、雪印食品株式会社の「雪印ミルクティー」の円筒密封型缶容器は、缶上端に半透明の白色ポリキャップが嵌着されており、正面の下部にミルクティーを満たし皿の上に載せたティーカップを斜め上方から見た図柄が描かれているなど、原告容器と共通する点もあるが、缶容器周面の地色が白色である上、正面の上部に設けられた、内部に商品名等が表示された枠が単なる横長楕円形の黒枠で、枠内の地色がクリーム色であって、全体に明るくシンプルな印象を与えるものである。

明治製菓株式会社の「ミルク紅茶」の容器は、蓋付の細長い円筒形缶容器であって、缶周面は赤地のタータンチェックであり、正面のほぼ中央にやや縦長のほぼ長方形状の大きい白地部分があり、青い太文字で商品名等が表示されているなど、全体に温かい雰囲気を醸し出しているものである。

和光堂株式会社の「ロイヤルミルクティー」の円筒密封型缶容器は、四二〇g缶(食缶二号缶)であって、缶上端に半透明の白色ポリキャップが嵌着されているなど、原告容器と共通する点もあるが、缶容器周面の地色がミルクティーの色を彷彿させるうす茶系統の色であり、正面の上部に横長で上辺中央及び下辺両端に滴様の飾りが施されている白色二重線による四角枠があり、その内部は渋い金色の地であって、白色文字で商品名が表示され、正面の下部にアンティークな感じのテーブル及び椅子等の図柄が大きく描かれており、右図柄のもたらす印象が大きく、全体として明るいアンティークな印象を与えるものである。

また、原告商品の販売開始後の平成五年五月に被告が販売を開始した被告旧商品(ミルクティー二七〇g缶)の容器も、正面の下部にミルクティーを満たし皿の上に載せたティーカップを斜め上部から見た図柄が描かれているなど、原告容器と共通する点もあるが、そのサイズは二七〇g缶であって原告容器よりも一回り小さく、缶周面の地色が淡い黄色であり、缶上端に嵌着されているポリキャップは不透明の濃い黄色であり、正面の上部の飾り枠は横長の外周が四角形で内周が楕円形の草花模様であるなど、原告容器と全く異なるものである。

更に、原告商品の販売開始前に販売されていた、粉末ミルクティー以外の粉末ティー(当時粉末ティーの主流を占めていた粉末レモンティーの外、粉末アップルティー等。乙二、四)や被告が被告旧商品を販売する前に販売していた粉末ティー(レモンティー、アップルティー、オレンジティー。乙第七号証別紙二)についてみても、その容器は、缶上端に半透明の白色ポリキャップが嵌着されていたり、正面の下部にティーを満たし皿の上に載せたティーカップを斜め上方から見た図柄が描かれていたり、缶容器周面の地色が濃い赤系統であるなど原告容器と一部類似する部分のあるものもあるが、総合的に原告容器の形態上の特徴を備えたものは存在しないといわなければならない。

(四) このように、従来の粉末ミルクティーはもちろん、粉末レモンティー等その他の粉末ティーの缶容器にも原告容器の形態上の特徴を総合的に備えたものはなく、したがって、原告容器のように全体として落ち着いた中にも豪華な印象を与えるようなものはなかったというべきであり、その意味で原告容器の形態は斬新であったということができ、前記の原告商品の販売数量、粉末ミルクティー市場における市場占有率等と相まって、原告容器の特徴ある形態は、一般消費者に強く印象付けられ、遅くとも被告商品の販売が開始された平成六年一一月頃までには原告の商品表示として一般消費者の間に広く認識されるに至ったものと認めるのが相当である。

(五) 被告は、<1>容器のサイズについて、被告は従前から他の商品にも食缶規格二号缶を使用してきている、<2>容器の基本色を濃い茶系統の色としたことについては、粉末ティーの容器には紅茶をイメージする紅系または茶系の色が従来から使用されており、原告だけが紅茶の持つ色及びそれに類似する色を独占的に使用できる根拠はない、<3>ポリキャップを缶に付する方法は、被告は約二〇年の長きにわたり行っていることである、<4>缶正面の下部にミルクティーを満たしたティーカップを配置した図柄は、被告も約二〇年の長きにわたり使用してきたものであり、他社の粉末ティーの缶容器にも同様の図柄が描かれており、ティーカップの撮影角度及びカップ下部の切れ具合もほぼ同一である、と主張する。

確かに、<1>の容器のサイズについては、食缶規格二号缶は従来から存する規格サイズの缶容器であって、前記の和光堂株式会社の「ロイヤルミルクティー」にも採用されているものであり、また、<4>の缶正面の下部にミルクティーを満たしたティーカップを配置した図柄は、前記の雪印食品株式会社の「雪印ミルクティー」にも採用されているところであり、その撮影角度も原告容器の図柄とほぼ同じであるし、右図柄は、レモンティー等その他の粉末ティーの缶容器(乙二、四)を初め、各種粉末飲料の箱容器にもしばしば採用されるものであるから、いずれもそれ自体が一般消費者の注意を惹くとは考えられない。

しかし、缶容器の基本色を濃い茶系統の色としたことは、従来、粉末ミルクティーにおいてはもちろん、粉末レモンティーあるいは粉末アップルティーにおいても用いられたことがなく、昭和六〇年前後の一時期、粉末レモンティーの缶容器又は瓶容器に濃い赤系統の色が(共同食品工業 hi-hi instant TEA」、「POKKA Lemon Tea」〔缶入り〕、同〔瓶入り〕)、また、粉末ストレートティーと思われる粉末ティーの瓶容器に黒色が(「サントリー TESS」、「AGF 紅茶物語」〔瓶入り〕)使用されたことがあるだけであったから、この点は、斬新であったというべきであり、缶容器正面の上部にやや横長で下側の長辺が容器正面の真ん中よりやや下方に位置する長方形の幅広金モールによる角形飾り枠を設けたことも、従来の粉末ティーの缶容器にはなかった特徴というべきであり(本件全証拠によるも、金色の帯状の角形枠が用いられていたことは認められるものの、幅広金モールの角形飾り枠が用いられていたことは認められない)、原告容器は、全体として落ち着いた中にも豪華な印象を一般消費者に強く与える特徴的なものとなっているのであるから、原告容器の形態の一部にありふれた部分が含まれているとしても、それがために原告の商品表示として周知性を取得している旨の前記認定を何ら左右するものではない。

二  争点2(被告容器は原告容器と類似し、原告商品との混同を生じさせているか)について

1  被告容器の形態

被告容器の形態(検甲二)は、次のとおりと認められる。

(一) 直径約一〇四mm、高さ約一二〇mmの円筒密封型の缶容器であり、これは、食缶二号缶という規格サイズである。

(二) 缶容器周面の地色は、赤みがかった濃い茶系統の色である。

(三) 容器上端には半透明の白色ポリキャップが嵌着されており、右ポリキャップ内側にポリキャップの内周とほぼ合致する大きさの丸い缶容器周面の地色と酷似した地色の紙片が入れられていて、金文字で中央に大きく二段にわたり「ROYAL」「MILK TEA」と表示され、その上側に小さく「meito」、下側に小さく「ロイヤル ミルクティー」などと表示されており、ポリキャップを通して右紙片の地色及び金文字がうすく見える。

(四) 容器正面の上部には、やや横長で下側の長辺が容器正面の真ん中よりやや下方に位置する長方形の四角を九〇度の扇形に内側に窪ませた幅広金モールの角形飾り枠(その下側の長辺中央部は、後記(五)のとおりティーカップの上方が重なっているため隠れている)が設けられ、右飾り枠の内側は、クリーム色の地であって、中央に缶容器周面の地色と同じ色の文字で大きく二段にわたり「ROYAL」「MILK TEA」と表示され、その上側に同じ色の文字で小さく「meito」、その下側に小さいやや赤みがかった文字で「ロイヤルミルクティー」、その下方に小さい黒い文字で二行にわたり「厳選された紅茶とミルクの豊かな味わい」「英国の香り漂うスタンダードテイスト」と表示されている。

(五) 容器正面の下部には、中央にミルクティーを満たし皿の上に載せたティーカップを斜め上方から見た図柄が描かれているが、右ティーカップの上方は前記(四)の飾り枠の下側の長辺中央部の上に重なって、これを隠しており、下方はティーカップの底部及び皿が一部切れている。

2  形態の類似性及び混同の有無

(一) 右1認定の被告容器の形態を前記一2(一)認定の原告容器の形態と比較すると、被告容器の周面の地色は原告容器の周面の地色よりも赤みがかってはいるものの(被告は「モロッコレッド」と主張する)、全体的には濃い茶系統の色であり、一般消費者に非常に類似しているという印象を与えるということができ、被告容器の正面の上部にやや横長で下側の長辺が容器正面の真ん中よりやや下方に位置する長方形の幅広金モールによる角形飾り枠が設けられている点で原告容器と同じであり、被告容器においてはその四角を九〇度の扇形に内側に窪ませている点で原告容器と異なるものの、幅広金モールによる角形飾り枠が従来の粉末ティーの缶容器にはなかったことに照らせば、右の差異は微細なものであり一般消費者の注意を惹くものとはいえない。また、右角形飾り枠の内側の地色は、原告容器ではミルクティーの色をイメージさせるようなうす茶色であるのに対し、被告容器ではクリーム色であるが、いずれも缶周面の地色との対比ではかなりうすい色である点で共通している上、被告容器のクリーム色もミルクティーに入れるミルクの色を彷彿させるものであるから、右の相違は一般消費者の注意を惹くことはないというべきである。

更に、缶容器正面の下部にミルクティーを満たしたティーカップを配置した図柄自体は前記のとおりありふれたものであるが、これを斜め上方から見る角度や正面下部における左右の位置及び上部の商品名が表示されている枠との位置関係についてはいろいろなデザインを採用することが可能であるにもかかわらず、被告容器に描かれたティーカップは、正面下部の中央に位置し、その上方は角形飾り枠の下側の長辺中央部の上に重なってこれを隠しており、下方はティーカップの底部及び皿が一部切れているという点まで原告容器と一致しており、その外、被告容器が原告容器と同じ食缶二号缶を使用している点、及び缶上端に半透明の白色ポリキャップを嵌着し、ポリキャップ内側にポリキャップの内周とほぼ合致する大きさの丸い紙片が入れられていて金文字で商品名等が表示されている点も原告容器と一致している(これらの点はありふれた形態であるとしても、必然的に採用しなければならないものではない)のであって、以上の事情に照らせば、前記角形飾り枠内に表示された文字が、原告容器では「ミルク紅茶」「Modern Times」「SWEET SCENTED & VERY TASTY」などであるのに対し、被告容器では「meito」「ROYAL」「MILK TEA」「ロイヤルミルクティー」などであることを考慮しても、被告容器は、一般消費者に対し全体として原告容器と酷似した印象を与えるといわなければならない。被告は、右のような表示された文字の相違を理由に、消費者の文盲率が低く商品知識の高い日本の市場においては被告商品と原告商品との混同は生じないと主張するが、採用することができない。現に、検甲第四号証(広島市内のスーパーマーケットで原告商品と被告商品とが同一の売場に一緒に並べて陳列されているところを撮影した写真)によれば、商品名等をよほど注意深く観察しない限り原告商品と被告商品との区別をつけるのは困難であるといわなければならない。時と所を異にする離隔的観察によればなおさらのことである。

(二) 以上のように、被告容器は原告容器と類似しており、被告容器を使用した被告商品を販売することは、周知性を取得した原告容器を使用した原告商品との混同を生じさせるものとして不正競争防止法二条一項一号所定の不正競争行為に該当するというべきである。そして、原告は右行為により営業上の利益を侵害されていると認められるから、原告は、同法三条一項に基づき被告容器を使用した被告商品の販売の差止めを請求することができるとともに、同法四条に基づき被告商品の販売によって原告の被った損害の賠償を請求することができるということになる(なお、損害賠償請求については、原告は同法二条一項三号の不正競争行為にも該当すると選択的に主張するが、これを理由とする損害賠償請求が認容されるとしても、その認容額が同条同項一号所定の不正競争行為を理由とする損害賠償請求の認容額を超えるものとは認められないから、右主張については判断しない)。

三  争点4(被告が損害賠償義務を負う場合に、原告に対し賠償すべき損害の額)について

1  被告が平成六年一一月から平成七年八月三一日までの間に被告商品の販売により得た粗利益の額が九八八万九七五〇円を、純利益の額が一一八万六七七〇円をそれぞれ下らないことは、前記第二の一3記載のとおりである。

2  原告は、不正競争防止法二条一項一号の不正競争行為に関しては、同法五条一項にいう侵害者が受けた「利益」とは粗利益を指すと解すべきであるとし、その理由として、通常、権利者がある商品表示について周知性を取得した段階では、既に商品の開発、普及のための初期投資は終了しているから、一般的に、侵害行為以降、販売費及び一般管理費は、侵害行為がなかったと仮定した場合の権利者の商品の製造、販売の増加分について、その分だけ実際に権利者が支出した費用よりも支出が増えるとは考えられず、したがって、侵害行為がなければ権利者が得たであろう逸失利益の額を算定するためには、侵害行為がなければ増えたであろう売上分について、侵害者側で支出した商品開発のための初期投資や販売費、一般管理費といった費用は除外する必要があり、結局、権利者の逸失利益は、侵害行為がなければ増えたであろう売上高からその商品を製造するため必要な製造原価を差し引いた粗利益の額に等しいものというべきであるところ、本件においても、原告商品が粉末ミルクティー市場において圧倒的に高い認知度と売上げを確立した後に被告商品が販売されたのであるから、侵害行為がなければ増えたであろう売上分について、製造原価以外に原告が特別な出費を必要としたとは考えられず、当該売上分について被告が出費した初期投資等の特別の費用を原告の負担に転嫁するような結論は妥当でない旨主張する。

しかしながら、本件において、原告は、被告による不正競争防止法二条一項一号に該当する不正競争行為がなければ原告が得られたであろう逸失利益の額を直接主張立証するのではなく、同法五条一項の推定規定の適用により、不正競争行為たる被告商品の販売により被告が受けた利益の額をもって原告の受けた損害の額と主張して、その賠償を請求をしているのであるから、原告容器が周知性を取得した段階では既に初期投資を終了しており、原告商品の販売が増加する分だけ原告商品についての販売費及び一般管理費の支出が増えるということには必ずしもならないとしても、かかる事情は、本件において立証の対象とされている被告商品の販売により被告が受けた利益の算定に当たっては直接関係のない事情であるといわなければならない。

そして、被告が被告商品の販売により利益を受けるためには単に被告商品の売上原価のみならず販売費及び一般管理費の支出も避けられないのであるから、特段の事情のない限り、同条同項により原告の受けた損害の額と推定される被告の受けた「利益の額」とは、被告商品の売上高から、売上原価のみならず販売費及び一般管理費を控除したいわゆる純利益と解すべきである(但し、このように解することと販売費及び一般管理費の額の主張立証責任の所在とは別問題であるが、本件においては右の純利益の額について当事者間に争いがない)。これに反する前記原告の主張は採用できない。

3  前記1のとおり、被告が原告主張の期間に被告商品の販売により得た純利益の額は、一一八万六七七〇円を下らないというのであるから、右額は、原告が受けた損害の額と推定されることになる。

第五結論

よって、原告の請求のうち、被告容器を使用した被告商品の販売の差止めを求める請求は理由があるから認容し、損害賠償請求は金一一八万六七七〇円及びこれに対する不法行為の後の日である平成八年六月五日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は失当であるからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 水野武 田中俊次 小出啓子)

第一目録

一 商品名「ミルク紅茶 MILK TEA 四二〇g缶」

二 図面(写真代用)の説明

第一図は正面図、第二図は背面図、第三図は前方斜め上方から見た斜視図

第一図

第二図

第三図

第二目録

一 商品名「ROYAL MILK TEA ロイヤルミルクティー 四二〇g缶」

二 図面(写真代用)の説明

第一図は正面図、第二図は背面図、第三図は前方斜め上方から見た斜視図

第一図

第二図

第三図

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